2022年4月5日火曜日

追悼:ジミー・ウォングとの(黒い)思い出。

ジミー・ウォングが亡くなった。おそらく出演作は4、5本しか観てなくて熱心なファンにはほど遠いのだが、『片腕ドラゴン』(71)がとにかく大好きで、あの腕が飛ぶシーンは何度観てもおおおと声が出るし、火鉢(だっけ?)に腕を突っ込んで鍛える意味不明なトレーニングシーンはテンションも音楽もサイコーすぎる。唐突な終劇も実に潔い。

続編の『片腕カンフー対空とぶギロチン』(75)が『キル・ビル』(03)効果でバカ映画として知られるようになったが、いや『片腕ドラゴン』はあんな悪ふざけで冗長なバカ映画じゃないぞ!本気の超ハイテンションなバカ映画だぞ!と拡声器を持って叫びたいくらい『片腕ドラゴン』が好きだ。

ジミー・ウォングといえば黒社会、というイメージもつきまとう。イメージというか、実際に黒社会とのつながりで有名な人である。

確か2004年くらいに来日して、取材する機会があったのだが、宣伝側からは前もって「どうか黒社会の話はNGで」と念押しされていた。口にこそ出さなかったが「いや、聞けって言われたって聞きませんよ、和やかに映画の話だけして帰りますって」と思った。その話題、白だったら超失礼だし、黒だったら怖すぎる。

取材当日、宣伝の人におそるおそる「ジミーさんのご機嫌はいかがですか?」と聞くと、「全然大丈夫ですよ、昨日も楽しそうにしてましたし、朝食の時なんかジャッキー・チェンの話題が出たらその場でジャッキーに電話をしてくれてビックリしました!」と教えてくれた。よかった。普通にしていれば不興を買うことはなさそうだ。

取材の順番が来た。目の前のソファーに、映画スターというより商工会の会長といった雰囲気のおじさんが崩した体勢で座っている。とりあえず「さっきジャッキーに電話をしたって聞きましたよ、やっぱりジャッキーもジミーさんの電話にはちゃんと出るんですね!」と雑談風に始めてみた。朝の和やかな空気のお相伴にあずかろうというフリーライターの姑息な手だ。

ジミーさんは機嫌良さそうに言った。「ジャッキーは俺には頭が上がらねえからな。アイツはゴールデンハーベストに移籍した時に不義理をやらかして、俺が助けてやったんだ。ヤクザに押しかけられてビビったアイツは、事務所に立てこもって、台湾にいる俺に電話して、なんとかしてくださいって泣きついたんだ」

いやいや、ちょっと待ってくださいジミーさん、である。それ、有名なエピソードかも知れませんど、ガッツリ黒社会の話じゃないですか?

「で、俺はそっち方面に顔が利くんで、俺の顔を立てろっつって騒ぎを収めてやったのさ、わっはっは」

眠そうな眼で笑っているジミーさんが急に恐ろしくなった。一緒に来ていた編集者は「やだなあジミーさん最高!」みたいなノリで大声で笑っているが、宣伝側の「黒社会の話はNG」を、ご本人が取材開始20秒でナシにしちまいましたよ。

当時の取材テープがどこかに残ってるはずだが、肝心のインタビューがどういう内容だったかはさっぱり思い出せない。覚えているのは、今は楽しそうに笑っていても、絶対に怒らせたらヤバい人だ、なんとか穏便な空気でこの場を切り抜けようと必死だったことくらいである。

まあ心配は杞憂に終わり、最後までジミーさんは上機嫌だったし、こっちも大好きな『片腕ドラゴン』の話も聞けてホッと胸をなでおろしたんだと思う。取材を終えて「ありがとうございました」と言うと、ジミーさんが名刺を出して渡してくれた。いや、名刺を出したのはお付きの人だったかも知れないが、細かいことは忘れた。とにかく渡された名刺には、ジミーさんの名前と、台湾の事務所の住所と電話番号が書かれていた。

「なにか台湾で困ったことがあったら、いつでも連絡しなさい」

それって完全に『ゴッドファーザー』(72)のヴィトー・コルレオーネが言うセリフでしょう! ちょっとでも恩義を受けたら最後、ある日突然「絶対に断れないオファー」をされる、絶対にかけちゃいけない電話番号でしょう! その場では平静を装って「どうもありがとうございます!」と礼を言って帰ったが(「そうさせてもらいます!」とは言わなかった)、アジアの黒社会と謎の接触をしてしまったという妙な興奮に包まれたものです。

結局ジミーさんがどれだけ黒かったのはよく知らないままで、あの日もらった名刺も捨てた覚えはないのにどこかに紛れて消えてしまったが、『片腕ドラゴン』は相変わらず大好きで、あの日は優しく取材に応えてもらって本当にありがとうございました。今はご冥福をお祈りします。

最後に『片腕ドラゴン』のAmazonリンク。吹替版しかないのはなぜだろう。

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B07T1F9PCV/

Huluだと字幕も吹替もあるみたい。
https://www.hulu.jp/one-armed-boxer

2021年11月2日火曜日

あの『アメリカン・ハニー』が日本初スクリーン上映ですってよ!(12月4日に再上映あり)

そうだ、記事を書こう。ブログを書くのは約2年ぶりだ。そうだ、京都に行こう、と決める前に、もっと早く思いつくべきだった。なにせ大好きな『アメリカン・ハニー』が、日本で初めてスクリーンで上映されるのだ。それもたった一日、一回だけ。

『アメリカン・ハニー』は、イギリスの映画監督アンドレア・アーノルドが2016年に発表したロードムービーで、同年のブリティッシュ・インディペンデント・フィルム・アワーズではケン・ローチの『私は、ダニエル・ブレイク』を抑えて作品賞、監督賞、主演女優賞など4部門に輝いている。

監督のアーノルドはイギリス人だが、舞台はアメリカ。田舎の貧困地域で希望ゼロの毎日を送っていた十代の少女スターが、雑誌の訪問販売をしながら旅をする若者の一団に加わり、まるでパーティーのような享楽的な暮らしに身を投じていく。彼らは現代のキャラバンであり、一種の疑似家族なのだが、未来など気にもとめない若者たちだからこそ成立している危ういその日暮らしは、まるでかりそめの夢を見ているかのようで儚くもある。

主演は、フロリダ州のビーチリゾートでスプリング・ブレイク中にスカウトされたというサッシャ・レイン。別の主演女優が急遽出演できなくなり、ドレッドヘアーで大きなタトゥーを入れた彼女に惹きつけられて出演を依頼したという。当人は最初はポルノの勧誘と思ったというのも当然の経緯だ。

ほかの出演者も、大半がストリートで監督に見いだされた演技未経験の若者たち。それぞれが撮影直前にだいたいの設定を知らされるだけで、誰もが素に近い状態で、ほとんどアドリブで演じたという。

サッシャ演じるスターと、彼女が恋に落ちるジェイク(シャイア・ラブーフ)を軸にした劇映画ではあるものの、意図的な演出にコントロールされていない出演者たちのナチュラルな佇まいが“なまもの”としか言いようのないライブ感を醸し出す。プロットを追うよりも、同じ空気を共有する刹那の高揚感こそが本作の核だろう。そして彼らが好むポップミュージックの数々が、本音で語り合ったりはしない若者たちのほんとうの姿を伝えてくれるように感じられる音楽映画でもある。

サッシャ・レインは本作で一躍脚光を浴び、『ハート・ビーツ・ラウド』(18)のようなインディーズ作品からリブート版『ヘルボーイ』(19)やマーベルの「ロキ」(21)といったメジャー系まで順調に俳優業を続けているが、本作のスター役はおそらく一生に一度レベルの当たり役で、彼女が放つ野生動物のようなオーラから目が離せなくなる。これほど“なま”なサッシャが見られるのも、デビュー作でしかあり得ない奇跡ではなかろうか。

ところが日本では、映画ファンであっても本作の存在を知らない人が少なくない。劇場未公開だしソフト未発売だし、動画配信サービスで観られた時期もあったが、それも短期間で消えてしまっている。そもそもアンドレア・アーノルドという監督も、世界的な評価は高いにも関わらず、日本では限定的な特集企画や映画祭でしか監督作が上映される機会がなかった。なんとももったいない話だ。

『アメリカン・ハニー』も、幸運にも観ることができた一部の人たちの間だけで語り継がれる幻の作品になってしまうかと思われた。ところが、最初に触れた通り、なんと京都みなみ会館で、11月6日に一度きりのスクリーン上映が行われることになった。

人づてに聞いたところによると、京都みなみ会館さんが自ら企画されたという。みなみ会館では以前もハーモニー・コリンの『トラッシュ・ハンパーズ』が一日だけ特別上映されていたが、あれは確か主催者が別にいたかと思う。日本の映画館で上映するには、海外の権利者から上映権を買い、日本語字幕を付けた上映素材を作る必要がある。その手間と費用を思えば、一日だけの上映というのはもったいないし、考えづらくもある。

なので、今後も上映の機会があったり、東京など別の街の映画館でかかる可能性はあるかも知れない。しかしそれも、現在唯一発表されている京都みなみ会館さんでの特別上映が成功しなければ、後に続く展開もないのではないか? その意味でも、この興行にはぜひ成功して欲しい。もちろん骨を折った人が報われて欲しいという思いもありますが、とにかくこの映画を多くの人に観て欲しいし、きっと企画の主旨もそこにあるんじゃないだろうか。

というわけで、微力ですが、自分も京都に行くことにしました。本作の映像美と詩情が最大限に発揮されるであろうスクリーンで観たいという我欲が一番の動機ではあります(※35mmのフィルム撮影と書きましたが勘違いでしたので修正しました。撮影はデジタルです。一時はサッシャ・レインのアップだけ35mmで撮ろうとしたけど断念したらしい)。しかし、単館の劇場が海外から一本の映画を買い付けて上映すること自体が大きなチャレンジだし、その瞬間に、祭りとして立ち会いたい気持ちも大きいです。

最近はことあるごとに残席数を覗いていて、あまり動きがなくて勝手にやきもきしていましたが、そろそろ座席も埋まってきた様子。興味がある方は、早めに予約しておくと後々悔やまずに済むのではないでしょうか?

そんなわけで、劇場サイトのリンクも貼っておきます。

https://kyoto-minamikaikan.jp/movie/13459/

◆2021年12月4日(再上映)

https://kyoto-minamikaikan.jp/movie/14370/


『アメリカン・ハニー』

2016年/イギリス・アメリカ/163分 監督・脚本:アンドレア・アーノルド出演:サッシャ・レイン、ライリー・キーオ、シャイア・ラブーフ、アリエル・ホームズ

京都みなみ会館にて、11月6日14:30から上映


追記:

ちなみにアンドレア・アーノルドの監督作は、現在開催中の東京国際映画祭で新作ドキュメンタリー『牛』(21)が上映され、Bunkamuraル・シネマが運営する動画配信サービスApartmentで『アメリカン・ハニー』の前作『ワザリング・ハイツ ~嵐が丘~』(11)が配信中と、なぜか突如としてラッシュ状態。マイケル・ファスベンダーが掛け値なしのクソ男を演じた『フィッシュ・タンク』(09、DVDあり)も青春映画の逸品なので、京都には行けないという人もぜひアーノルド作品に触れていただきたいです。

2019年12月24日火曜日

【わりと緊急!】ハル・ハートリーの新作プロジェクト『WHERE TO LAND 』のクラウドファンディングのこと。

滅多に書かないブログを久々に書きます。
《長文:クリスマスの、いや誕生日のお願い》
世の中的にはクリスマスイブですが、自分的には誕生日ってことでちょっとワガママを言ってもいいだろうと、これを読んでくれているみなさまに一方的なお願いがあります!
 
村山がここ3年ほど関わっているNYの映画監督ハル・ハートリーが、現在、新作映画の資金を集めるクラウドファンディングを募っています。ですが、ぶっちゃけかなり厳しいペースだと思っています。
 
ハートリーはすでに脚本が完成し、キャストも決まっているている長編のために約3300万円を集めようとしており、今日の時点での達成率が40%ほど。30日間の募集期間が2/3過ぎていて、残り11日(1月5日午前5時〆切)。
正直もうなりふり構っていられないなあと思いました。だから必死感出てると思います。ごめんなさい。
 
で、何が言いたいのかって、ハートリーを好きじゃない人に支援してくださいとはとてもじゃないけど言えない。言えないですが、例えば自分の世代で90年代にハートリー作品を観ていた人はそれなりにいたはずだし、2014年のリバイバル以降、新しい世代のファンも育っていて、自分はまだまだ現役の監督だと思っているわけです(アップリンクで今やってる初期短編特集には、実際、驚くくらいお客さんが来てますし)。
 
しかしながら、ハートリーが新作を作ろうとしていることすらまだ全然知られていない。自分の力が及んでいないのは重々承知していまして、残念ながら自分にはハートリーのポテンシャルに見合うだけの波及力がない。。。
 
新作が観たくてたまらない一ファンとして、ひとりでもクラファンに参加してもらえると本当に嬉しいですが、もちろんハートリーの作品にピンとこない人もいるでしょう。それはそれとして、この話題を広げたり、ハートリーという映画作家を知ってもらうために、お力を貸していただけないでしょうか?
 
具体的に何をとは申しませんが、平たく言えば「拡散希望」です。とりあえずクラファンの募集ページをURLを貼りますね(日本語の説明もあります)。
 
【新作プロジェクト『WHERE TO LAND 』クラファンURL】https://www.kickstarter.com/projec…/260302407/where-to-land/
 
あと、さっき書いたように「初期短編特集」が現在アップリンク渋谷、横浜シネマリン、大阪シアターセブン、京都出町座で上映中してます。短編なんで少々マニアックですけども。
 
そしてハートリーの入門編として、最も愛されていると言っても過言ではない名作『トラスト・ミー』の上映会を高円寺シアターバッカスで年末29日、30日にやります!
 
30日の夜の部はまだお席が空いてますので、ハートリーを知らない、名前だけしか聞いたことないという人におススメです。この機会に観てみていただけると嬉しいです。
 
【クラファン連動企画『トラスト・ミー』年末特別上映】https://halhartleyscreeningsjp.jimdosite.com/
併映:29日『あみこ』、30日『はなしかわって』
ゲスト:山中瑶子監督、大島衣提亜氏、Gucchi's Free School
 
また『トラスト・ミー』を含む初期三部作「ロング・アイランド・トリロジー」が、12月27日より一週間、アップリンク渋谷の「見逃し映画特集2019」で上映されます。
 
また同業者や映像、メディア関係の方でハートリーの過去作観たいっていう方、いらしたら連絡ください。なにかしらなんとかします。クラファンの〆切が迫ってるんで、とりあえずは誰もが忙しい歳の瀬限定の対応になって申し訳ないですが。
 
シビアなことを言うと、100人200人集まってどうにかなる額じゃないので、大口の出資者が現れてくれるしかないねすよね。でも、それもひとりひとりが集まってくる勢いがあってこその可能性だと思うんですよ。それにこのクラファンは「All or Nothing」方式なので、クラファンが失敗したら誰にも一銭も課金されないので、失敗した時にお金を損するんじゃないかという心配は無用です!
  
その他、あらゆる応援やアイデアも随時募集中です。時間との戦いで、できることできないことあるでしょうが、まあ、最後までジタバタするつもりですのでどうかよろしくですメリークリスマス&ハッピーニューイヤーです!

2019年7月21日日曜日

『天気の子』が驚くほどによかった件。※ネタバレなし

『天気の子』について村山が肯定的なのが意外だったという話を少なからぬ数の友人からされたので、ちょっとだけ整理してみようと思います(ウソです、書き終えたらかなりの長文になりました)。
 
自分が『君の名は。』に否定的なことは、劇場公開当時から身近な人たちはウザいくらい聞かされていたかと思います。ただ先日のプチ炎上騒ぎについては「劇中のある行動に対する物語上の処理が、一観客として気持ち悪いと感じるし、いい手とも思えない」という意見の表明であって、『君の名は。』の作品全体の価値の話はしていなかったつもりです。
 
その「気持ち悪さ」に限って言えば、『君の名は。』ほどじゃないけど、『天気の子』も気持ち悪いです。特に思春期の少年に「私の胸見てたでしょ~」とからってくる「ほのエロいお姉さん」というキャラ付けは、いつまでこんなことやってんだって思うくらいこっ恥ずかしいし、「女性側から冗談にしてもらってる都合の良さ」も一貫していると思います。
 
でも、それってアニメに限らず男性主体の表現が延々と抱えている幼さであり、個人的には世間の受容のされ方が変化していって欲しいと願いつつ、そこがいいんだという気持ちもわらからなくはないし、そのことを理由に作品を全否定する気はない。ただその扱い方が、『君の名は。』には問題があったのではないか、というのが自分の考えです。
 
で、じゃあなんで『君の名は。』はダメで『天気の子』はOKなんだと言われると、「いや、そういうとこ以外では、『君の名は。』と『天気の子』はビックリするほど違う映画だったんです!」と説明するしかない。
 
新海誠監督に詳しくないので、この二作品で比較するしかないんですけど、映像の切り取り方も編集のセンスもフィクションとしての現実との向き合い方も、『天気の子』の方がはるかに素晴らしかった。自分としてはマイナーチェンジではなく、「本当に同じ監督?」と疑うレベルで違っていたという印象です。
 
そんなのお前の好みだろうと言われればその通りだと思います。自分は『君の名は。』は件の「気持ち悪い」問題とは別のところでも、まったくと言っていいほど魅力がわからなかったし、作品的に優れてる点がどこなのか理解ができませんでした。でも『天気の子』に関しては、本当に面白かったし、夢中になったし、興奮もした。新海誠という人がどういう作家なのか、遡ってみようと思うきっかけにもなりました。
 
なので、村山の映画の見方に、多少なりとも興味を持ってくださる人がいるのなら、『天気の子』はおすすめです。一見以上の価値があると思います。お口に合うかはわかりませんし、相変わらずほのかに気持ち悪いですけども。
 
そして前にも書いたけどIMAXがすごくよかった。スクリーンがデカいというだけじゃなく、縦に長い画面比率が「街と空」という作品の空間設計とすごく合っていた。ただほかのフォーマットでは観てないんで、観較べてみようかと検討中です。とりあえず地元のウルティラスクリーンにでも行ってみるかな。池袋のIMAXがフルサイズで映写されてるなら間違いなく行くんだけど、それだと比較にならねえか。
 
※『天気の子』の何が具体的によくて、『君の名は。』の何がダメだったのかは、何か機会があったら書くかも知れないし、書かないかも知れません。ライター業なんで原稿の依頼があればもちろん書きますけど、まあ仕事としてのニーズはないだろうなあ。

2019年5月26日日曜日

バリ島のトラスポート事情にまつわる備忘録【2019年5月版】

先日訪れたバリのトランスポート関連でメモっておきたいことを備忘録として列挙。
バリ島個人旅行を考えてる人には多少は役に立つのでは。もっといい方法がある、みたいな話はぜひ教えていただければと思います。
 
《空港タクシー対策》

バリは空港タクシーが独占企業的に暴利をむさぼっているので、どういう方法で空港を出るのかが最初の関門になるわけですが、今回現地のUberみたいな配車サービスGrabGo-Jekを使ってみようとしたところ、時間貸しのチャーターではウブドまで行ってくれない(もしくは大幅に増額)とのこと。空港からダイレクトに目的地なら使えた気もするけれど、今回はサヌールで友人をピックアップする予定だったので断念。
 
結局徒歩で空港の外に出てBlue Birdのメータータクシーを拾いましたが、サヌール寄ってドライバーが身内を間違えて多少遠回りしたけど25万ルピア(約2000円)。空港内からは拾えないメータータクシーですが、南部エリアからウブドまで行くなら、最安とは言わずともかなりいい選択肢なのではないかと思いました。

徒歩で空港の外に出るルートは、国際線ターミナルを出て、正面の駐車場のビルを抜けた先のフェンス沿いの歩道を左へ。しばらくいけば右手に出口があります。そこでGrab、Go-Jek、Blue Birdのタクシーを呼ぶもよし。ハリスホテルのあるデウィサルティカ通りまで出れば流しのタクシーも捕まえやすい。
 
《長距離移動》
 
パダンバイからウブドまで、片道7万5千ルピア(約600円)のプラマ社のシャトルバスを使おうと思っていたが、パダンバイのプラマのオフィスがなくなっていた。バス乗り場は500m北に移転したらしいが、係員は常駐していないらしい。ネット予約もできるが前日までなので今回は使えず、当日直接行ってバスが来ない可能性も考えてプラマは断念。
 
同じ7万5千ルピアで別会社のシャトルバスも出ているようだが運行状況がわからないのと、早く出発したい事情があったのでこれも見送り。
 
GrabとGo-Jekを調べてみると、Go-Jekの方が圧倒的に安い。確かパダンバイ、ウブド間が18万ルピアとかだったような。35万とか言われても全然不思議じゃないんだが(友人が乗ったパダンバイ→クタ間のタクシーは確か向こうから安くするよって言ってきて30万だった記憶)。
 
ただし、パダンバイみたいな田舎では、値段は出てきてもGo-JekもGrabも一向にドライバーがつかまらない。30分くらい待って諦めかけた頃に、突然、近くにGo-Jekのドライバー出現。たまたま近くに住んでいて、さあクタ辺りに出てひと稼ぎするかみたいなタイミングだったらしい。
 
Go-JekもGrabも便利だけど、事前予約ができないのが欠点というか、田舎にいる時のデメリット。いや、実は事前予約機能もあるのだろうか。アプリをいじってみた範囲では無理そうだったが。(『ロスト・バケーション』でブレイク・ライブリーが辺鄙なピーチから「Uberで帰る」って言ってたが、あれも本当にドライバーなんて来てくれるのだろかと思ったのを思い出した)
 
ちなみに今回使ったのはGo-JekのCar。Bikeだったらさらにバカみたいに安いらしい。ただしBikeは30キロ以内とか制限があったはず。
 
《新規参入のトランスポートサービス》
 
今回調べていて存在を知ったのが、GETTRANSFERというトランスポートサービス。Uber、Grab、Go-Jekと似ていて、事前予約ができる。Uber、Grab、Go-Jekと違うのはアプリを必要としないことで、サイトも日本語化されていてとても使いやすい。
 
空港送迎にも対応していて、こっちの名前を書いた札をもって空港に迎えに来てくれるという(ただし遅延で待ってくれるのは一時間まで)。
 
値段もGo-Jek並みに安くて、時間制のレンタルもできる。世界各地でサービス展開していて、使えるならムチャクチャ便利だなと思ったのだが、ネットでの評判がほとんど引っかかってこない。そこで英語の書き込みを漁ると、やたらと評判が悪い。
 
「ポジティブな書き込みは全部サクラ」「問題が起きてもなかなか返金しない」「サクラっぽい投稿はほぼロシア人だからモロバレ」などなど。
 
あまりにに書きっぷりが酷いので、これは本当に酷いのか、それとも中傷されてるのかどっちかだろうと踏んで、機会があれば試してみようと思っていた。
 
で、早朝のウブドから空港(約一時間)の道のりで予約してみました。結果から言うと、なんの問題もなく快適なドライバーに当たりました。
 
このサービス、最初に値段が表示されるのだけれど、実際に申し込んでみると、ドライバーからの入札みたいな状態になって、自分で誰かひとりを選ぶシステム。なので、時間を置けば置くほど、入札してくるドライバーが増えて、安い値段を提示される可能性も上がる。
 
で、今回は最安値だった24万ルピア(約2000円)のドライバーにしてみた。選んだ理由は、値段だけでなく、個人ではなく会社名で出てきて、検索したら実在する会社っぽかったから。なけなしの警戒心。
 
考えてみたらバリ島は観光客を車に乗せるのに公的機関の認可が必要なので、GETTRANSFERがちゃんとした会社なら、提携してるドライバーは認可が下りている個人か会社ということになる。だとしたらあんまり疑う必要はないのかも知れない。
 
予約するとドライバーの連絡先がメールで送られてくるのだが、それも会社名義のメルアドになっていたので、念を入れて予約の確認をしたいというメールを送ったところ、わりと即レスで戻ってきた。
 
さらに当日連絡を取りやすいように、WhatsAppのアカウントがあったら教えてくれと。で、それから先はWhatsApp経由でやり取りをしたので、事前の不安はほぼ解消される。まあ、当日になってドライバーが現れない可能性もあるが、その時はその時で別に手配すればよいだろう。
 
果たして、ピックアップ時間の朝6時ぴったりにドライバーが現れた。もう近くでスタンバイしていたレベルの正確さ。料金は事前にGETTRANSFERにクレジットカード払い。英語もできて、ほどよく気さくで話し好きで、早朝ということもあって予定よりも5分ほど早く空港到着。
 
途中で車が増えてきた時に「ジャラントール(有料高速道路)を通るよね?」と念を押したら、通らなくても変わらないよ、と言いつつ、思い直したように高速を使ってくれた。言わなかったら有料道路の料金(約80円)を浮かすつもりだったのかも知れないが、通ったからといって追加料金を請求されることもなかった(予約時のルートはジャラントール経由になっていた)。
 
空港に着くと、特にチップが欲しそうなそぶりもなく、さくっと「じゃあねー」って言って去っていった。超スムーズ。ドライバーの当たり外れはあるだろうが、とりあえずバリでのGETTRANSFERは、結構使えるんじゃないだろうか。
 
《まとめ》
 
GrabやGo-Jekはかなり便利だけど、ウブドとかだと地元の方針でピックアップはさせないというルールがあること(抜け道はいっぱいありそうだが)。そして確認で電話がかかってくることもあるので、通話ができる現地SIMがあると便利。あとアプリの設定時に電話番号がいるので、日本で設定しておくか、現地でSIMを買って電話番号を入手する必要あり。

使ってないけど、Go-JekのアプリにはBlue Bird社のタクシーを呼ぶ機能もあった(Blue Birdはタクシーを呼べる自社アプリもあり)
 
空港周辺や南部エリアからウブドまでなら、メータータクシーは決して高くない。むしろ安い。
 
事前に手配したい時は、まだ一回きりのお試しとはいえGETTRANSFERがかなり使える印象。そして最安ではないにせよかなり安い。連絡を取って相手とやり取りできることも含めると、安心感も加えた使い勝手の良さではナンバーワンかも。
 
プラマのバスがある路線で一人か二人なら、たぶん最安に近いし今後も使うと思うけど、パダンバイの営業所の一件などを考えると、今後は別のシャトルサービスもチェックせねばと思いました。
 
サルバギタっていう地元用バスは一回3500ルピアと気が狂ったような値段なので、今度試してみたい。空港からDFS前で降りて、別路線に乗り換えたらププタン広場くらいまで行けるのでデンパサール滞在の時によさそう。バイパスで降ろされるけどサヌール辺りも空港から一本で行ける。最終的にバトゥブランまで行くので、そこからベモでウブドも可能とのこと。
 
ウブドでバイク借りたけど、もう産業革命レベルで革新が起きた。この話はまた文脈が違う気がするので今回は割愛。値切って5日間25万ルピア。一日400円。もっと安くでいけそうな気もするけど、その手間と時間を思えばこの値段なら充分な気がした。ガソリンは、バイクだとスタンドで満タンにして2万ルピア程度でした。
 
ちなみに現地SIMですが、空港の販売店は高いと思ってこれまで避けてきたけど、今回最大大手Telecomselの一ヶ月有効、21ギガまで使い放題、ローカル通話は無料、テザリング可能というSIMが空港で25万ルピア(約2000円)。係員にSIMロックフリーの携帯を渡せば即設定してくれて、支払いを含めて所要時間5分足らず。時間のロスを考えれば、観光客としてはベストの選択肢なんじゃないかと思いました。SIMロックフリーの端末持ってれば、ですけども。
 
※写真は借りたバイクのメーター。緑に光ってる警告灯の意味がわからずすげえ不安になった。まあ緑なんで大丈夫でしたけども。

2019年3月14日木曜日

イーストウッド監督『運び屋』の、夫婦の最期のやりとりのこと。

ネタバレ話をどうしてもしたいのが、仕事として記事化するほどの分量でもないので久々にこちらに投稿。

【警告】重要シーンのネタバレをします。

2018年12月13日木曜日

ハル・ハートリー《ロング・アイランド・トリロジー》デジタルレストア版、劇場公開に寄せて。

【激しく平身低頭しながらの告知】
いよいよ明日14日から劇場公開が始まるハル・ハートリー監督《ロング・アイランド・トリロジー》デジタルレストア版。ここまでたどり着くのに、これほどトラブルが頻発し、多くの方に多大なご迷惑をかけ、なおかつ支えてもらっていることに、もう感謝と恐縮の気持ちしかないです。
 
そして今年の春に、「ハル・ハートリー復活祭」という聞こえようによっては随分と失礼なネーミングの催しを始めたわけですが、今後どういう流れになろうとも、今回の劇場公開が一番の山場であり、クライマックスになるだろうと思っております。客観的に考えても、今回の三部作(『アンビリーバブル・トゥルース』『トラスト・ミー』『シンプルメン』)ほど、ハートリーの人気作が並ぶことはないと思うので。
 
劇場公開は、東京、大阪、横浜、京都、刈谷、神戸、ちょっぴり松本と今後はあちこちを回ります。クラウドファンディングで実現した2種のBOXセットも販売中です。
 
90年代に人気を博したハートリーが(他の多くの映画作家も)2000年代になって一度消えてしまった理由はいろいろありますが、ファンだと思っていた自分たちの怠慢もあったと思っています。自分にとって、このハートリーにまつわる一連のことは、「自分たちは映画をどこまで次に繋げていけるのか?」という切迫したチャレンジであるとも思っています。
 
そして、新しい世代にも響く価値と魅力がある作品群だと信じているので、どうかゴリ押しすることをお許しください。自分の立場は一介のライターでしかありませんが、なぜだか配給っぽいことに手を出して、思いもしなかった遠いところまで来てしまい、戸惑いと不安の中のわずかな希望を引っ掴んでかろうじて立っております。ほとんど泣き落としで恐縮ですが、どうかひょろっと映画館に立ち寄ってやってください。東京近辺の人は、うわさの新劇場アップリンク吉祥寺の偵察がてら、ちょうどいいんじゃないですかね。そして直接面識のある人は、どうか村山へのご祝儀だと思ってハル・ハートリー作品を観に行ってみてください!
 
※今回上映されるのは、三作とも監督の監修によるデジタルレストア版。新規日本語字幕です。
 
※あと劇場パンフが全部で96ページあるハートリー自身が執筆した回想録なので、超お得だと思います!
 
アップリンク吉祥寺      12月14日~
第七藝術劇場/シアターセブン 12月29日~
横浜シネマリン        1月19日~
出町座、刈谷日劇       2月予定
元町映画館          3月予定

《ロング・アイランド・トリロジー》日本語公式サイト
https://longislandtrilogyjp.jimdofree.com/


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