2016年1月24日日曜日

知らないひとの人生がわっさわっさと降ってくる本。


結構前に買ったまま寝かされていたミランダ・ジュライのインタビュー本「あなたを選んでくれるもの」を、一度手に取ったら半日で読み終えた。自身の監督・主演作『ザ・フューチャー』の脚本執筆に行き詰った彼女が、フリーペーパーに売買広告を出す人たちに興味を抱き、片っ端から電話をして訪ねて回る突撃取材モノ。
いや、そこはミランダ・ジュライなんで突撃取材という勇ましさはなく、短く分けられた章に一組ずつあらわれる名もない一般人の濃密さに取材者本人が動揺し、読んでいるこちらも彼らの人生の断片を受け止めきれずに胸が苦しくなってくる。
とにかく一つの章を読み終えるごとに軽い休憩が必要で、一気に読み通したら『サウルの息子』並みに消耗するのではないか。
そして読み終えてみれば『ザ・フューチャー』の壮大なメイキングとしても機能している辺り、表現者の貪欲さってすごいなと。特に気まぐれで始めた取材が『ザ・フューチャー』の舞台裏や中身とシンクロしてくる終盤は、ノンフィクションとは思えないほどドラマが立ち上ってくる。
ミランダ・ジュライはもの哀しくもキラキラとした長編映画デビュー作『君とボクと虹色の世界』にノックアウトされ、第二作の『ザ・フューチャー』では暗い閉塞感がたちこめた内容に軽く途方に暮れたのだが、この本を読んだ以上『ザ・フューチャー』を観直さずにはいられない。
同業者でもあんまりミランダ・ジュライ観ているひとって多くない気がしますが、とりあえずこの本から入っても興味掻き立てられるんじゃないでしょうか。ささやかだけど凄味のある本でした。