2017年10月1日日曜日

「昔のIMAXはすごかった!」という旧世代の繰り言を証明してくれるエキスポシティの『ダンケルク』の話

大阪エキスポシティのIMAXレーザーで観た『ダンケルク』のことを書いておきます。
※長文注意   以前にいささか苦言を呈した『ダンケルク』という作品の評価については脇に置きます。はっきり言えるのは、昔、海外の専用劇場や新宿の高島屋やポートピア博覧会のダイエー館でフィルムのIMAXを体験したことがある人には、本当に心からエキスポシティで『ダンケルク』を観て欲しいということ。   「フィルムだのレーザーだの言うけれど全部IMAXじゃないの?」と思う人は、ググってもらったらいろいろ違いを説明しているサイトがあるはずなので割愛します。専門的なことをすっ飛ばして言うと、おそらく昔の(フィルム時代の)IMAXを知っている人は、今のデジタルIMAXの劇場に行っても「こんなもんだっけ?」と思っていたはず。   随分昔の記憶と比べているから思い出補正されているのかな、なんて考えつつも、あの「圧倒的」だったIMAXはどこに行ってしまったのかと、自分は思いましたし、ずっと思ってました。   例えばかつて新宿の高島屋にあったIMAXは、3フロアをぶち抜きで劇場が作られていて、スクリーンの高さも3フロア分あって、その前に急こう配の客席が設えられていた。画面サイズを気にするまでもなく、視界のすべてがほぼスクリーン状態だった。   フィルムのIMAXの縦横比は1.43:1。普通の映画よりも縦が長くて、印象としては正方形に近い。それが目の前の巨大な壁いっぱいに映されると、スクリーンの枠というものをほとんど意識しなくなる。   普段、自分たちは映像を枠単位で見ていると思う。ビスタであれシネスコであれスタンダードであれ、四角い額縁の中で動いている画の集合体であり、映像がキレイだった、というのは、画質のことや何が映っているかというだけでなく、四角いキャンバスの中にみごとにレイアウトされていて美しい、という意味でもあった。   その常識が、フィルムのIMAXだと通用しないのです。目の前に広がっているのは確かに映像なのに、「枠」という感覚が失われることで、そこに空間そのものが広がっているように感じるのです。これは3D映画がもたらすギミック的な立体感とは全く別のものなのです。   で、『ダンケルク』は、監督のクリストファー・ノーランがわざわざフィルムのIMAXを基準にして作った映画なわけです。ただ世界の現状として、フィルム上映ができるIMAXシアターはもはやわずかな数しかない。じゃあせめてノーラン監督にとってベストの状態に近い1.43:1の縦横比で、なおかつ巨大スクリーンで映写されている施設は、国内では大阪のエキスポシティのIMAXレーザーしかないのです。   自分は『ダンケルク』より前にIMAXレーザーで上映された映画を2本観ていますが、どちらも1.43:1よりも横長のサイズで、上下に黒みが映っていて、劇場のマックスのポテンシャルを感じられたことが一度もなかった。いや、『スター・ウォーズ フォースの覚醒』は一部だけ1.43:1のフルサイズになったけれど、それもわずかな時間しかなくて拍子抜けだった。   『ダンケルク』の場合、全体の7割ほどがIMAXレーザーの巨大スクリーンを覆いつくすフルサイズで作られているので、印象としてはほぼほぼ1.43:1の映画だと言っていいと思います。   で、『ダンケルク』の上映が始まって、目の前の巨大スクリーンいっぱいに映し出された瞬間に、昔、フィルムのIMAXを観た時の衝撃がよみがえってきた。ダイエー館の鮫の映像で、母親が悲鳴を上げた記憶がよみがえってきた。映っている、というより、そこにある、としか言いようがない存在感。IMAXが一度日本から消えて、デジタルIMAXとして戻って来た時には味わえなかったあの感覚。もう表現として目指してるものが根本的に違う。「映画」じゃなくて「IMAX」なんですよ!って、抽象的で申し訳ありませんけども。   極論を言うと、現在のIMAXのほとんどは確かにスクリーンが大き目で高画質ですが、あくまでも普段見てる映画体験の延長上でしかない。だからこそフィルム時代を知る古い人間は「あんなのIMAXじゃねえよ」なんて内心では満足できずにいたし、「じゃあどれだけ凄いのか見せてみろよ!」と言われた時に返せる答えが「エキスポシティの『ダンケルク』を観て!」なのです。   「でも『ダンケルク』じゃなくてもよくない?」と思う人には、いや、上映できる劇場がほとんどないのにわざわざ1.43:1のIMAXフォーマットで作るような酔狂な映画ってほとんど存在してなくて、『ダンケルク』の次にいつ観られるかなんてわからないんですよ、と説明しなくてはなりますまい。
  とはいえ縦が長いIMAXレーザーの『ダンケルク』に戸惑ったという人もいるようだし、普通の映画館やデジタルIMAXの劇場で観て「充分面白かったし感動した」という人もいる。でもこれは映画の良し悪しの話ではなく、「IMAXってこんなにすごいんだよ!」っていう話なので、どうかエキスポシティでやってるうちに、観に行ける人は行ってみてください。   自分は関東から深夜バスで平日に片道3000円かけて行きましたが、その価値は間違いなくありました。もちろん懐に余裕のある人は新幹線でどうぞ。   ※IMAXレーザーの映画館は、大阪以外には2019年に池袋にできる予定だったはず。あとソウルと台北にもっとデカいのがあります。   追記:『ダンケルク』の初見の時は、ハンス・ジマーの音楽や音響設計が大仰で苦手に感じたのだが、IMAXレーザーのスケール感だと大仰とは感じられず、映像とちゃんと釣り合っていた印象に。ああ、この音楽も本来はフィルムのIMAX仕様で作られていたかも、と思い直した次第です。